剣武天真流「スイカ割りの呼吸」の秘密

剣武天真流「全集中のスイカ割り」がTV放映へ】にまとめた経緯でめでたくテレビ放映は実現した訳だが、当初(昨年夏頃)は30分くらいと聞かされていた放映枠は、関東で7分程度、関西他では3分程に圧縮され、「これって前振り?」と思っていたらそれが本番だったという驚きの結果に。

更に、現場では剣武天真流本部正師範5名分の撮影がほぼ半日に渡って行われたのだが、実際に放映されたのは3名分だけで、成功したのは関口仁師範のみというような形に編集されていた。

実際には、雨による中断を挟みながら「一人当たり2,3回のチャレンジでほぼ全員が成功!」という劇的な展開だったのだが、制作サイドによると「あまりに凄すぎてヤラセに見えてしまうので」との理由でそういう形になったらしい。

確かに業界全体でヤラセが常態化し、視聴者もそういう風にしか見なくなってしまった今、その方針は賢明だったと思うが、「実際とは違った印象に編集する」という意味では、これもある種のヤラセ(ほどよく失敗する絵にするという)と言えなくもない。

まあ、複数の制作会社が鎬を削っている現場でのこと、限られた時間枠の中で剣武の本質(天地人々ワレ一体)を外さず、視聴者の関心が高まるようまとめてくれただけでも良しとしたい所だが、現場の盛り上がりを直に体験した立場としては、正直残念な気持ちもあった。

何しろ、放映の可能性がある間は、番組を見て下さる方に映像で驚いてもらいたいと、喋りたい気持ちを半年以上もグッとこらえて来たのだ。その上でのあの放映だったので、「これはやはり実際のところを伝えておかないと」と思うに至った。という訳で、以下「スイカ割りの呼吸」の秘密を解き明かしてみる事にする。

この企画が打診された折、「できるだけ成功に辿り着けるよう、どのようにしたらやり易い条件になるのかアイディアをどんどん出して欲しい」との事だったので、私たちは思いつくままそれを伝え、当日はそうした条件下でもチャレンジを試みた。おそらく、制作サイドも「声掛け無しの公式ルール」で成功するのは難しいと思っていたのだろう。

当初は何が要求されているのかがよく分かっておらず、「スイカがパカッと割れるシーンがカッコよく撮れれば良いのだろう」くらいに考えていたのだが、本番近くなってから「スイカ割り公式ルール」なるものがあり、それに則って行われる事を知った。「公式ルール」とは以下のような条件を指す。

・棒は直径 5cm 以内、長さ 1m20cm 以内の棒(今回はこの条件に見合う軽めの木刀を使用)
・目隠し用として、手拭またはタオルを準備する(撮影スタッフが準備したものを使用)
・スタート地点で目隠しをし審判員がチェックする(ディレクターの方が審判員役)
・目隠し状態で5回と2/3回転する(止まれの指示は審判員が出す)
・スタート地点からスイカまでの距離は5〜7m
・制限時間 1分30秒(残り時間10秒とか言われる)

通常はこれに加えて、「もっと右!」とか「行き過ぎ!」などというサポーターの声掛けが許されるのだが、今回は一切無し。「これはかなり厳しいな~」と思い、「せめて歩幅くらいは合わせておこう」とスタート地点からスイカ設置点までの大体の歩幅を確認しようとしたら、「それ、止めて下さい!」と制止されてしまった。どうやらガチの絵を求めているようだ。

ロケ地のキャンプ場には、ディレクター、カメラマン、音声、ADなど総勢15名ほどのスタッフがいて、雨でも撮影が続けられるようテントや椅子の準備も為されていた。スイカ割り実施前に、青木宗家のお話、挑戦者全員分の意気込み、型の撮影等がなされ、更に超高速度カメラでのプロフィール撮影など、結構な手間が掛かっていた。

当日は降ったり止んだりの雨模様で、途中から足元はぬかるんだ状態になったりもしたが、何とか撮影が続行できたのは幸いであった。最初、目隠しの無い状態で「どのくらい綺麗に斬れるのかを試す」という事で、望月ウィウソン師範が挑戦。

木刀でスイカを「割る」事はできるだろうが、綺麗に「斬れる」のかどうかは誰も試した事がなく、ここでヘマると目隠し状態でのスイカ割りのハードルは一気に高くなる。下手をすると表面でツルっと滑ったりするかもしれない。そういう意味で、最も緊張する瞬間の一つだったが、ウィウソン師範は迷いなく見事に一刀両断!「割る」ではなく「斬る」を示し、切断面も実に美しかった。

以降、5名が順番に公式ルールで挑むことになったが、なにぶん半年も前のこと、誰から始めたかが曖昧になってしまったので、ここでは放映順+2名という形で整理させてもらうことにした。尚、2回目、3回目というのは、全員が1巡目を終えた後に2巡目に入り、その時点で成功していなかったメンバーが更に3巡目を行なったという意味である。

★丸山貴彦師範(33歳の若侍)
1回目:失敗、放映通り(距離はバッチリだったが惜しくも30センチほど横を斬る)
2回目:成功!(風よけの透明な囲いの中にローソクを立てスイカの先に置く)

★モチヅキウィウソン師範(南米の剛腕剣士)
1回目:失敗、放映通り(ほぼスイカをかすめる近さで地面を叩いて木刀が折れる)
2回目:失敗(怒りを強く持った人物〈スタッフ〉にスイカの先に立ってもらう。放映時のADさんと同様、最初全く見当違いの方向へ行きつつも途中で驚きの修正が入り、最終的に1回目と同じぐらいのところまで接近した)
3回目:成功!(スイカの先に関口師範が立つ)

★関口仁師範(最年長の古豪剣士)
1回目:成功!放映通り(いきなりの大成功で全員が驚く)
2回目:成功!放映通り(綺麗に切断された破片が右に飛ぶ)

★モチヅキ吉田倫子師範
1回目、失敗(スイカの右側へ1mくらい逸れる)
2回目、失敗(扇風機でスイカの背後から風を送る。1回目よりかなり接近したが刀を振り下ろした時に逸れてしまう)
3回目、成功!(スイカの先に夫でもあるウィウソン師範が立つ)

★小原大典(全て飛び斬りで挑戦)
1回目、失敗(スイカの左側に2mくらい逸れる)
2回目、失敗(扇風機でスイカの背後から風を送るが1回目よりも更に左側に大きく逸れる)
3回目、失敗(スイカの先に関口師範が立つ、スイカのほぼ真上に跨がるような形で着地
→ 振った木刀をギリギリでよける。避けなければ額あたりから真っ二つに斬られていた感じ(関口師範談)

☆ADさん
失敗、TV放映分(1巡か2巡した後くらいに師範全員で呼び込もうスイカの背後に集まって気を送る)

以上が実際の結果である。正直、「一人でも割れたらラッキー」と思えるくらいに厳しい条件で、最初は誰かが近くまで行けたら御の字と思っていた。やってみればわかるが、スタート時に5回と2/3も回ると、その時点でかなり目が回ってしまい、まず自分がどちらを向いているのかが分からなくなるし、すぐに歩き出すと変な方向にヨタヨタしてしまったりするのだ。

かといって、それが落ち着くのを待っていると1分30秒の制限時間がすぐに迫って来る。そんな中、いきなり1回目で成功させただけでなく、無茶振りの2回目も続けて成功させた関口師範はやはり”凄い”としか言いようがない。お陰で撮影スタッフの疑念も一気に解けて、「関口さんがいれば成功する」みたいな雰囲気がそこに生まれた。後半、スイカの後ろに関口師範に立ってもらったのもそういう経緯があったからである。

それで、実際のところ「スイカに気配はあるのか?」と問われたら、少なくとも私はスイカの気配は全く分からなかった。青木宗家も「攻撃心の無い存在の気配はつかめない」と、予め私たちを安心させて下さるようなコメントを開始前のインタビュー時にされていたが、まさにその通りであった。ただ、「スイカとの入り迎え」を行った事で、細胞レベル(あるいはもっと根源的なところ)で何らかの繋がりが出来た、というのはあったかもしれない。

普段から木刀や模擬刀に対しても行っている「入り迎え」をあの場面で行った事で、深い動的瞑想状態に入れたというのもあったし、スイカだけでなく撮影現場全体とも融け合って成功に至る「場」が醸成されたようにも思う。

ちなみに、扇風機は屋外では全く役に立たなかったが(笑)、「人の気配」というのは思いのほか強く感じられるもので、撮影クルーの中でも「チャンスを逃すまい」と注意を向けているカメラマンの存在感はとても強く感じられた。最後に、これでもまだヤラセだと考える疑い深い人たちのために、現場の状況についてもう少し詳しく書いておきたいと思う。

・出発点からスイカに向かう右手には川(沢)が左手には崖があり「沢の音」が参考にはなった
・目隠しは完全な暗闇ではなく明暗差で山の稜線の雰囲気くらいは分かった
・カメラマンを中心に撮影クルーの気配はとても強く、その立ち位置が参考になった
・歩数確認は禁じられていたが、回を重ねることで距離感はある程度調整できた

つまり、「心眼」だとか「気の力」だけで成功した訳ではないという事だ。もっとも、成功に向けて「その場で何とかしよう」とする気持ちがなければ、こうした事柄にも気づかないまま失敗を重ねる事になったであろう。

実際、全く見当はずれな方向に行ってしまったADさんは、一回きりのチャレンジだった事に加え、準備なしで突然「やってみて」と言われてトライしたので、上記のような事に気を向ける余裕も無かったと思われる。

そういう意味では、現場で最大限の力を発揮するために、状況を把握して使えるものは何でも活用する、そのような心身の状態を生み出すのが剣武天真流(天真体道)の稽古だと言えるのかもしれない。その中には「心眼」とか「直感力」の開発も、当然含まれるのである。

最後に、現場での素晴らしいパフォーマンスに加え、私の怪しげな記憶を補足して下さった本部正師範の皆さん、制作サイドとの細かなやり取りを通じて全面的にバックアップして下さった天真会の吉田晶子事務局長、そして、このような結果を私たちに出させてしまう稽古法と体技を生み出し、力を十全に発揮できるような「場」を創って下さった天真体道創始者・青木宏之先生に、この場をもって御礼申し上げる次第です。(D)

共振の月22日  9・星(KIN48)

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